私はダメ人間じゃない~ネットカフェ難民の叫び~

男に目線を送られるだけで、私の体は反射的に竦んでいた。


「幾らだい?」


以前、こんなサラリーマンを威嚇してやったら、逆ギレされて痛い目にあった。

ここは無視して立ち去るのが無難だ。


昔の私なら我慢ならないところだろう。

ながい派遣生活を続けていると、そんな心は、とうの昔に折れてしまっていた。

付け加えて、男性恐怖症という心の病を抱えてしまったのであれば、逃げるが勝ちだ。

私は足早にその場をあとにした。



少し早いが、ダラダラと歩けば時間をつぶせるだろう。

酔っ払いを右に左に避けながら、ネオンがきらめく路地を歩いてゆく。


この角を曲がると、いつものネカフェの看板が見えてくる。時間を確認すると、午後10時50分だ。

この10分が長い。


バッグを提げなおすと、フラフラとその看板の前に近づいた。エレベーターの前で時間をつぶすつもりだった。

しかし、その足は看板の寸前で止まった。


いきなり両脇から伸びてきた手が、私の体をがんじがらめにしたのだ。

とっさになにが起こったのかわからない。

私の腕をつかんでいるのは中年の男二人だ。



その顔には、見覚えがあった。