私はダメ人間じゃない~ネットカフェ難民の叫び~

「知ってる? 社内で恋愛してると、現場飛ばされるの」

「さあ」

「あ、そう。じゃあ、あとで泣かないように気をつけてね」


意味深な笑いを貼り付けると、渡辺は私のもとから去っていった。


(じゃあ自分が飛べよ、ヤリマン女が)


ムカムカして怒りが収まらない。いつもあの女は、平常心が必要な作業に、最悪な環境を作ってくれる。


その噂は他のところに飛び火していた。

私の耳に入れたのは、長く勤めている社員のおばさんだった。


「海野さん、岬さんと付き合ってるんだって?」

興味津々という目つきで、こっそりと耳打ちしてきた。

えっ、と聞き返した私に、そのおばさんは肘で小突いてみせた。

「噂になってるよ。アイドルを盗られたって」

「誰がそんなこと──」

と言いかけた私の頭に、渡辺の顔が浮かぶ。

「渡辺さんから聞いたんですか」

私の顔がこわばっていたのを見て、おばさんは一瞬たじろいだ。

「え、うん」

言っていいものか悪いものか、考える前に返事をしている感じだ。

もぞもぞとした口調が、真実を裏付けていた。


(あの女!)


なるほど、噂を広めて私を別の現場に飛ばそうという魂胆だろう。