「……これでいいのか?」
しばらくして、カリアが僕に聞いてくる。
僕はそれにうなずく。
もう迷いはなかった。
そこでファギヌが、いつも優しい顔を少しだけ心配げにして、言う。
「でもシューちゃんはいいのかい?」
それにも僕はうなずいた。
そう。
確かに今日ここにシューは来ていなかった。
というのも、昨夜ーーーー
2人ですごす最後の夜。
この一週間のように、僕の部屋に来て、星を見ながら飽きることなくしゃべっていた。
するとシューが、なんの前ぶれもなく言う。
「あのね、イルト。」
僕はシューに、イルトのままでいいと言っておいたから、シューとアルマさんはずっとイルトと呼んでくれる。
だから、そのシューの言葉に、
「なに?」
と聞くと、シューはこっちを見ないまま言う。
「あたしね、明日はイルトの見送りには行かないことにしたの。」
「え?」
と僕は驚く。
あまりにも予想外で。
それに、少しさみしくて。
するとシューは焦ったように手を横に振りながら言う。
「あ、えと、違うの!
嫌いになったとかじゃないんだよ!
ただ……」
とそこでシューはうつむく。
シューのきれいなさらさらの黒髪が、肩からこぼれる。
「ただ………
見送りに行ったら、きっとあたし、引き止めちゃうから……」
髪のすき間から見えるシューの大きな黄緑色の瞳が、たまった涙で宝石のように輝いている。
「シュー…」
そんなシューを見て、僕も切なくなる。
だから僕は、
「……うん。わかった。
気にしないでね、シュー。
明日は、ちゃんとシューのこと考えてから行くよ。」
それにシューは悲しく微笑んで、
「うん。ありがとう、イルト。」
それから僕の首にかかっている石を触り、
「ちゃんと約束、覚えててね。
これからも毎日、イルトのこと考えてるから。」



