ひとしきり泣いたころには、日は沈んでいた。



湖には、満月が映っている。




「母さんに怒られちゃうね。」

と、おどけて言うシューに、僕も笑う。





と、突然シューは僕の方を振り返り、小指を出す。


「ね。約束して。」




それに僕は、

「何を?」

と聞く。




シューは一度うつむいてから、照れたように言う。




「……絶対に、また帰ってきて。

強くなって、かっこよくなって。


そしたら、また、ここに来よう。」



それに僕は、自分のあまりにも暗い未来を想像して、一瞬悲しくなる。


しかし、その小さな幸せを希望にしようと、差し出された小指に、僕の小指を絡める。



「………約束。」





それから、暗い気持ちを振り払うように僕は笑って、続ける。



「その変わり、シューもここで待っててね。」





それにまたシューは。


嬉しそうに、笑った。





僕は、そのシューの笑顔を見て。


もしかしたら一生見られなくなるかもしれない笑顔を見て。



すごく幸せな気持ちになる。


ついこの前までは、当たり前のように感じていた幸せが、いまはとても遠く感じる。



だから、今だけでも。今だけでいいから。

あと少しだけ、この人間としての幸せを味わいたくて。

離したくなくて。



シューの手を、強く、握った。











かつて『ヒト』は、『力』を求めた。




かつて『ヒト』は、『化け物』に憧れた。








しかしいま。





ある悲しい『化け物』は、





その命を差し出してもいいほど。










『ヒト』の生を、夢見た。