「…………よく、耐えたね。」
それに意味がわからなくなる。
何を言っているんだ?
この人は何を………
「こんなに強く死を決意するほど、あそこは辛かったかい?」
ああそうか。同情してくれるのか。
同情して、僕を理解して、可哀相だから、と僕を殺してくれるんだろうか。
「死ぬほうが楽だったんだろうね。生きるのよりもずっと。」
早く殺してくれればいいのにな。
「これは君には、残酷な話かもしれないけれど…………
僕らは君を殺すつもりはないよ。」
少し悲しそうな顔をして言う男の人に、僕はもう絶望する。
失敗した。
死ねなかった。
またあの日々が始まるのか。
どれくらい続くのかな。
あの3年間もきつかったけど。
男の人は僕を見つめて言う。
「私たちには、君が必要なんだ。」
それに僕は思わず言った。
「実験に?」
あそこではいつもいろんな実験をされたから。
その僕の言葉に、また男の人は悲しそうな顔をするけど、僕はそれにも何も感じない。
もう、絶望しかないから、感情がない。
そういえば2年前まではこうだったな、なんて思う。
最近の僕はあまりにも幸せで、いつも笑っていたから忘れていたけど。
2年前までは何にも無表情で、何を言われても何も感じなくて、感じるのは体の痛みだけで。
まあその体の痛みも、体が痛まない日なんてなかったから、痛いという感覚さえ忘れていた。
そんな日々を思い出す。
それから男の人が、女の人に向かって、
「思っていたよりも、深刻な状況だね。」
と、困り果てたような顔をして言うけど、それさえどうでもいい。
とにかく早く殺してほしいのに。
どうしたら殺してもらえるのか。
しかしそこで。
背後で空気が変わるのがわかる。
それは殺気なんかではない。
森が。
森の空気が変わった。
それに振り向くと、そこでは。



