そこまでで僕は全力で走った。
追いつかれないように。
捕まらないように。
あんな所へ二度と、戻らないように。
少し走っただけなのに、うるさく打つ鼓動のせいで、すぐに息が苦しくなる。
その間も頭はあの2人のことを考えていた。
まさか。まさかまさか。
絶対に。戻るもんか。
あんなひどい……
しかしそこで目の前に突然さっきの女の人じゃないほうのコートの人が現れる。
足が止まらず、ぶつかった。
その人は僕の肩を、抱く。
その手でこれが男の人だとわかる。
しかしそれに僕はもう目をぎゅっと閉じていた。
相手が男の人なら、もう、逃げられない。
勝てない。
もう、捕まった。
しかしそんな僕をよそに、男の人がしゃべった。
「ほら。怖がらないで。」
と言って、僕の頭をなでると、なでていないほうの手で、フードを取る。
ひどく穏やかな、優しい細い目をしていた。
僕よりも明るめの金に近い茶髪に、同じような金にも茶色にも見える瞳。
その男の人が僕の後ろを見て、
「怖がらせちゃだめじゃないか。」
と言う。それに僕が振り向くと、いつの間にかさっきの女の人が、腕を組んで立っている。
男の人の言葉に少しだけ眉をひそめ、言う。
「私はなにもしてないだろう。」
と答える。
それに、たしかに、なんて言いながら男の人が笑う。
それを見て僕は必死で考える。
いま何が起きているのか。
なぜ僕を連れて行かないのか。
そんな僕を見た男の人が、なだめるようにして僕に言った。



