2人の大人が現れた。
僕がこの村に来てから、この村の人以外の人間を見たのは初めてだった。
しかもこの大人は普通じゃない。
擦り切れて、使いこまれたことのわかるコートを着ていて、それに付いたフードをかぶっている。
思わず目を離さず見つめていると、その大人の一人が僕のほうを向いた。
僕は太い幹に隠れるようにして見ていたのに、その大人が迷いなく僕のほうを見つめてきたことに驚く。
フードで顔はよく見えないけど、確かに僕の目を見ていた。
するとそのこちらを見ている人が口を開く。
「降りてきてくれないか。」
女の人の声だった。よく通る少し低くめの、冷静な声。
僕は少しためらったけど、その人が僕を見つめたまま動かないので、枝から飛び降りた。
僕が降りてすぐ2人がこちらに近づいてくる。その途中で、僕を見つめていたほうの人がフードに手をかけ、取る。
現れた顔は、とても綺麗な女の人だった。
珍しい紺色のさらさらで長い髪に、同じ紺色の切れ長の瞳。服装からは、長旅をしているのがわかるのに、肌は白く、汚れていなかった。
茶色と黒以外の髪の色を見たのは久しぶりだったので、つい見つめていると、その女の人が口を開く。
「………この村の子供ではないな。」
それに僕は思わず後ずさる。
足が、震える。
一気にあの記憶が蘇る。
毎日見る、あの夢。あの記憶。
まさか、この人。



