バルさんに言った言葉は嘘だった。
僕は
覚えている。
この村に来るまで、どこにいたのか。
何があったのか。
だが全部ではないことは確かだった。
この村に来るときにどんな道を通ったのかとか。
ただ真っ暗な道をひたすら走ったことしか覚えていない。
何日走ったのかも。
そして。
僕の本当の名前とか。
誕生日とか。
と、そこまで考えて、体が震えるのを感じる。
ひどい恐怖と、悲しみに。
自分の出生のあたりの記憶を思い出そうとすると、いつもこうなる。
怖くて怖くて、心が、思い出したくないと、叫んでいるのがわかる。
だからいつも僕はそこで思い出すのを止めていた。
僕が思い出せるのはいつも5年前までだった。
この村に来る前の3年間。
そこで僕は考えるのを止めた。
どうせ過去の話。
もう僕はイルトとして産まれ変わったんだから。
大人しくしていれば
また化け物に戻ることだってない。
そして僕は一度テーブルの上に置いた花の首飾りを一度見て、窓枠から下りて近寄りと、その中心で淡く光る黄緑の石を触る。
シューの瞳の色に似ているな、と考えて微笑む。
それから僕は、明日はシューと何をしようかなと考えながら、眠った。



