またバルさんが口を開いた。
「……世の中には、思い出さないほうがいいこともある。」
それに僕はバルさんのほうを見ないまま、はいとうなずいた。
「お前はもうこの村の人間だ。」
その言葉に僕はバルさんを見た。とても穏やかな顔をするバルさんに目が離せなくなる。
バルさんは僕と目が合うと、ふっと笑ってから、かすれた笑い声を上げ、
「目の前の日常を、大切にしなさい。」
とだけ言って、広場の人ごみへと消えた。
それから夜中までみんなで遊んだ。少しずつ村の人たちも帰って行って、僕とシューもアルマさんに連れられて帰ることにした。
ラニテイたちと別れて、ゆっくりと家に向かう。
「今日はほんとに楽しかったねーっ!」
とシューがまだ熱の冷めきらない様子で言った。僕も笑いながら、
「そうだね。ほんとに嬉しかったよ。」
と言って、また幸せをかみしめた。村の人たちの優しさが、いつまでも僕の心に染み込んでいくのがわかる。
ほんとに幸せだな、と思っていると、アルマさんが僕の肩に手を置いて抱き寄せると、
「ほんとに良かったわね。」
と言って頭をなでてくれる。また幸せになった。
僕を自分の子供だと言ってくれたアルマさんには、一生感謝してもしきれないものがあると思う。
それから。
僕はまだ首にかけたままだった花の首飾りを触って、僕とアルマさんのやり取りをニコニコと見ていたシューを見る。
「シュー。これ、大切にするね。」
と、心の底から約束した。シューはまた照れたような顔をして笑ってから、うんとうなずいた。



