zinma Ⅰ




「イルト。」

という声に、はっとする。


いつの間にか僕を、ラニテイもナギキもテマもシューも心配なげに見ている。

しかし僕を呼んだのは4人ではなかった。


気まずい空気を消そうと、4人のうしろに立っている人に声をかける。


「バルさん……」

それに4人も振り返る。




杖をつきながら、ゆっくりとバルさんが近づいてくる。

そして、僕に微笑んで、

「イルトおめでとう。」

それに僕はなんとか笑顔を浮かべて、

「ありがとうございます。」

と言う。


バルさんはそれにうなずいてから、

「少し…、ふたりで話さないか。」

と言う。それにシューが、

「じゃああたしたち屋台見て回ってるね!」

と言って、ラニテイたちと走っていく。



その4人をバルさんは優しい目で見送ってから、僕に向き直る。

じっと、まばたきもしないで僕を見る。

小さな黄緑色の瞳はとても深い色をしている。その瞳に、心の底まで見透かされる気がして、僕は口を開いた。


「えっと…村の人にこの祭のことで声をかけてくださったんですよね。ありがとうございます。」


と言うと。まだ僕を見つめたまま、少しだけ頬をゆるめて、


「……ああ。せっかくだからね。」

と言ってから、黙りこむ。




そしてしばらくしてからゆっくりとバルさんは語る。


「……お前がこの村に来たときは、ひどかったよ。」

「………」

「全身にひどい傷がついていた。」

「………」

「あれは………拷問を受けた傷だ。」

「………」

「ひどい話だな。」

「………」

「………ほんとうに覚えていないんだね?」

「………はい。」

「……そうか…………」



そこでバルさんは、目を賑やかな広場へと移す。

僕もそっちを見た。

ゲームの屋台でシューたちが遊んでいる。失敗してすねたテマをからかうナギキと、なだめるラニテイ。そしてその横でシューは笑っていた。