「イルト。」
という声に、はっとする。
いつの間にか僕を、ラニテイもナギキもテマもシューも心配なげに見ている。
しかし僕を呼んだのは4人ではなかった。
気まずい空気を消そうと、4人のうしろに立っている人に声をかける。
「バルさん……」
それに4人も振り返る。
杖をつきながら、ゆっくりとバルさんが近づいてくる。
そして、僕に微笑んで、
「イルトおめでとう。」
それに僕はなんとか笑顔を浮かべて、
「ありがとうございます。」
と言う。
バルさんはそれにうなずいてから、
「少し…、ふたりで話さないか。」
と言う。それにシューが、
「じゃああたしたち屋台見て回ってるね!」
と言って、ラニテイたちと走っていく。
その4人をバルさんは優しい目で見送ってから、僕に向き直る。
じっと、まばたきもしないで僕を見る。
小さな黄緑色の瞳はとても深い色をしている。その瞳に、心の底まで見透かされる気がして、僕は口を開いた。
「えっと…村の人にこの祭のことで声をかけてくださったんですよね。ありがとうございます。」
と言うと。まだ僕を見つめたまま、少しだけ頬をゆるめて、
「……ああ。せっかくだからね。」
と言ってから、黙りこむ。
そしてしばらくしてからゆっくりとバルさんは語る。
「……お前がこの村に来たときは、ひどかったよ。」
「………」
「全身にひどい傷がついていた。」
「………」
「あれは………拷問を受けた傷だ。」
「………」
「ひどい話だな。」
「………」
「………ほんとうに覚えていないんだね?」
「………はい。」
「……そうか…………」
そこでバルさんは、目を賑やかな広場へと移す。
僕もそっちを見た。
ゲームの屋台でシューたちが遊んでいる。失敗してすねたテマをからかうナギキと、なだめるラニテイ。そしてその横でシューは笑っていた。



