「あなた様は…っ!」 「し…!俺達は今日初めて顔を合わせた、そういうことにしておれ。」 彼女だけにしか聞こえぬ小さな声で囁いた。 手で口を覆い、小さく頷く彼女。 「武田晴信だ。…気に入った。そなたを我が妻に迎え入れよう。今後、よろしく頼む。」 「…は…はい…っ!」 大きな瞳から、またしても涙が零れる。 だがそれは、歓喜の涙だと解った。 彼女は泣きながらも、安心した顔で微笑んだ。 婚礼の儀は卒なく進行し、新たに夫婦になった俺達には二人の部屋が設けられた。