「婚儀の話が来ておる」



それだけ言ってこめかみを押さえる晴明に、聖凪は少しきょとんととする。



ともすれば、婚儀なんて不穏どころかおめでたいじゃないですか、などと言いそうな顔をしている。



それを見た晴明は呆れ半分嘆き半分といった体の深いため息をもう一度つく。



「…………其方にじゃ」



「っ」



聖凪も今度こそ一瞬驚いた顔をするが、一変心底不機嫌そうな顔をする。しかし、そこは普段から厳しく躾られている聖凪だ。すぐにわざとらしい不恰好な笑みを作る。



「婚儀……?」



笑顔で繰り返す聖凪に晴明はおもむろに頷く。



「…それはまた………父上お得意のご冗談ですわよね?」



今度はため息をつきながらゆっくりと首を左右に振る父に、聖凪はそっぽを向く。



「嫌です」



きっぱりと拒否した娘に晴明も呆れて笑うしかない。子は親の言うことに何も言わずに従うものだ。



勿論、晴明は嫌がる子に無理矢理にでも従わせるような事はしようとも思わないが。ここまで我が儘に……いや、自分に素直になるか。



「いや、しかし先方たっての願いでな」



先を続けようとする晴明に聖凪は眉間に皺をよせる。もとい敵を見るかのように睨み付ける。



「第一に私はまだ裳儀すら済ませておりません!!」



それだけ言うと聖凪は又もや横を向いてしまう。もう十六の筈なのに、ここまで子供じみた態度をとるとは………



晴明も、娘の気持ちは判る。



いや、むしろ娘よりも、娘を嫁がせたくないと思っている。この家に最初に授かった姫であるし、赤子の頃より大事に大事に慈しんできた。



たとえいつか嫁ぐ時が来ても、自分が認めた、何よりも聖凪自身が幸せだと思える相手と添い遂げて欲しい。



今までに何度かこういった話はあった。何しろ都一と噂される美貌の持ち主だ。父である晴明の身分はそう高くないが母の身分は申し分ない。



きっと今までも忍び込んできた不貞の輩も数はいるだろうが、式や女房たちがそれを許さなかっただろう。



そして邪な考えを持つ者など、今後とも許す気はない。



だが、先方がしっかりと段取りを踏んできたのだ。



「…しかし、あと一月で成人することは決まっておる。其方は廻に比べるとちと遅かったがなぁ」