今日に限って、将がすごく、楽しそうにしているように思える。

好きな歌手の話だからだろうけど。将はそういう人なんだけれど。

どれをどうしても、今日のあたしにとっては、全てのことに"最後"がくっついてきて、

変な感覚を覚えた。隣に並んで歩くのも、もう慣れきったことなのに、

気まずいから、顔を見ないようにしているから、   最後だから。


曖昧な速度の鼓動と、雨を予感させるようなじめじめとした空気が鬱陶しかった。



「今日さぁ、歩きでいい?」

「いいけど・・・なんで?」



正門を出たところで、歩くのを止めた。

いつもならここで、あたしが将の後ろに乗って、学校から駅まで送ってくれる。

なのに今日、不思議なお願いだった。

将は後ろに乗せるのが好きだと言っていたから、不思議でしょうがない。



「んー・・・歩いたほうが、駅まで長いしさ」



今までの半年間、そんなお願いはされたことがなかった。

晴れてても、曇りでも、雨なら尚更自転車だった。

その度にあっという間に駅についていたんだけど、あたしはそれについて何も思わなかった。

当たり前、だったから。



「・・・珍しいね」


「なんか、うーん・・・気分?」



へらへら、へらへら。

将の笑った顔を見て、あたしは落ち着いた。

将はそういう人だった。軽く気分屋だ。

だからいつも唐突に遊びに誘うし、無口になるし、不思議。

でもよかった。


"あたしと一緒に居たいから?"


なんて、淡くてなんとも自意識過剰な発想が、すーっと消えてくれた。

こんな気持ち、余計居づらくなるから。



"思い立ったら吉日"という。

まさにそれに従って、決心を固めて、駐輪場で待っていたのに。



「あ。それから、公園にも寄っていきたいし」


「・・・まぁ、いいよ」



流されるがままに、ペースを持って行かれる。

今日言わないと、今日、しないと。

強く思っているのに切り出せない。


悲しくないのに情がある。

"最後"だから、

いいや。なんて、開き直って歩き出したことは、間違いだった。