藤井先輩の私。

「は?」


江梨香は口をあんぐりとあけて、自分の耳を疑った。


喧嘩上等、暴走上等の男勝りな姉の口から、いままで聞いたことのない単語が出てきたことに、心底江梨香は驚く。



「『は?』じゃねぇよ。だからぁ、“恋”って知ってっかって聞いてんだよ」



「綾姉…熱でもあるんじゃねぇの」



江梨香は自分の額を綾女の額にくっつけて、温度を測る。




「ねぇ…みてえだけど…」




ドゴッ!!



「綾姉!いきなり頭突きすんじゃねぇよ!」



「あたしは一度も風邪ひいたことねぇし、熱も出たことねぇぞ!あたしはマジメに言ってんだよ」



赤くなった額をなでながら、江梨香は大きくため息をついた。


「…はぁ…。で、“恋”がどうしたって?」


「これが恋かどうか、わかんねぇけど…そいつのこと考えると心臓がうるせぇんだ…」



綾女は胸を抑えて、苦しそうに顔をゆがめる。


江梨香は、姉の恋する女の表情にひたすら驚くばかりであった。



「…で、相手だれだよ。族のメンバーにいんの?」


江梨香は頭の中に、そこそこ顔がいい紅蓮の幹部たちの顔を思い浮かべる。


セイヤか、ムサシか、コマか…


下っ端にもイケメンいたなぁ確か…。


「仲間は男に見えねぇよ」


仲間じゃねぇということは、まさか天竜の総長…とか?

敵対する族のトップに恋して、悩んでるのか?綾姉!



「…同じクラスの奴だよ」