今日もまた仕事が一段落つき、アニーの病室に向かって歩いていると、アニーの病室から見慣れない男の人が出てきた。

その男の人がカトレアとすれ違い、軽くカトレアは会釈をしたが、男は無言で去って行った。

男が病室を出ていくのを横目で見ながら、カトレアはアニーの病室の前に立った。

扉を少し開けたとき、アニーのすすり泣く声が聞こえたが、途中まで開けた扉を戻すことはできずに中に入った。

「今日もお腹の子は元気に動いていますか?」

アニーは気付かれないように涙を拭き取っている。

なるべくカトレアもアニーと目を合わさずに、独り言のように話し続けた。

「最近、良い天気が続きますね。早く出産を終えて、外に出たいでしょう?その時は、アニーさんのお子さんと私とマリア4人で公園にでも行きましょうね。」

ようやく落ち着いたのか、アニーは軽く咳払いをして

「そうですね。みんなで行けたら楽しいでしょうね。・・・気にかけてくれてありがとう。」

アニーはお腹に手をあてて更に続けた。

「もう気付いていると思いますけど、この子にパパは・・・」

少しづつアニーの表情が曇っていく。

「この子にはおじいちゃんもおばあちゃん居ないのです。それなのに私のわがままでこの子に辛い想いをさせると思うと・・・」


「生まれて来なければ良かった。なんて思わさないように、この子と楽しい家庭を作れば良いじゃないですか。」


「パパが居ないと、きっといつか生まれて来なければ・・・って。・・・私もそうでしたから・・・」