「家に帰るから大丈夫」
「家って……」
「実家だよ、実家」

納得したが、それにしたってここから1時間程はかかるだろう。
もう時間も遅くなってきている。
少し心配でもあった。

「一人で帰れるから、気にしないで?」

俺の気持ちを読み取ったかのように、にこっと笑って寿々歌は俺を安心させようとする。
“お邪魔しました”と言って彼女はお辞儀をすると、リビングに投げ出されていた荷物を持ち上げて、玄関の方に向かった。
俺も後をついていく。

「お別れはここでいいよ?」

せめて駅まで送ろうと思ったのだが、玄関で止められてしまった。
彼女は俺に背を向けて、玄関を出た。
少し残念だった。

やはり、まだ俺達は本当の恋人とは言えない。
まだ本当の幸せは手に入れられない。