これが夢であれば、と。 切実に願った。 あの笑顔の裏には恐ろしい過去なんて見当たらないというのに。 「啓太ーそろそろ手伝ってー!」 彼女が啓太を呼んだ。 慌てて立ち上がった啓太は、彼女に向かって微笑みながら「分かった分かった」と返事をした。 「そういうわけだから……」 啓太は店の奥へと入っていき、暫くしてエプロンをつけて彼女のいる厨房へ現れた。 俺の昼食を運んできてくれた彼女は、やはり変わらない笑顔だった。 記憶を失くしても……、俺にとって寿々歌は寿々歌以外の何物でもなかった。