「いや戦いは趣味だからいいの。それにここ人間いないでしょ?いるときは僕紳士的だよ。」

紳士?趣味で城壊されていたらこっちはたまったものじゃないのだが。

「それよりお前、油断していていいのか?油断大敵って言ったのはお前だぞ。」

え、と勇者が声をもらした瞬間、勇者の頭上に大きな氷柱が降り注いだ。無駄話をしている間に俺が準備した魔法。空気がだんだん冷たくなった。

「…やる、ね。今の、は、ちょっと、油断していた。」

大量の氷柱が刺さったそこから、途切れ途切れの言葉が聞こえてきた。やはりあいつは丈夫だ。

俺は立ち上がる。爆発で足を少しやってしまったが、たいした事はなさそうだ。

氷柱の隙間から中心部にいる勇者が見えた。血が流れている額を押さえているが、どうやらそれだけのようだ。避けたのだろうか。だとしたらやはり人間離れしている。

「う、ん。君はやっぱり強いね。楽しいよ。」

そう言いながら勇者は一つ魔法を自分の周りに浮かばせ始めた。

「もっと遊びたいけど、今日は用事があってね。もう帰らなくちゃ。王様に僕がちゃんと戦っているっていう証拠をどうもありがとう。」

勇者の周りに浮いた魔法が光り、そのまま勇者は消えた。

「…証拠作りのために来たのか。」

まったくもって腹が立ってきた。

おそらく王様に本当に魔王討伐に向かっているのかとでも聞かれたのだろう。それで今日わざわざ俺の城までやってきて、怪我という“証拠”を作ったのだ。

勇者がいなくなった城は一気に静まり返った。もう少しすればいなくなったとばかりに家臣の誰かがやってくるだろう。

今日の用事は済ませてしまっている。もうすることは事務作業くらいしかない。

「つまらな…。」

…いや、つまらなくはない。勇者じゃあるまいし。やるべきことはまだある。四天王の代わりを立てなければならないし。中央統制もある。

「さて、仕事…。」

俺はそこに氷柱や爆破片を残し、部屋へと向かった。