「伊織ちゃん、新規いける?」


待機場所にいたあたしに黒服がそう促すと「はぁい」とだけ答え準備した。



今日は比較的暇だ。


指名のお客さんたちも帰ってしまい、それでも今日の売り上げは自分では満足っだったので、他に呼ぶ気なんて、まっさらなかった。



時計に視線を流せば、もう少しで12時を指そうとしている。


店の終了時間まであと2時間半。



よし!!


そう自分に気合いを入れなおすと、黒服の後ろへと並んだ。



「よし、行こうか」


「うん」


「1人手前にいるのが、あきちゃん指名みたい、で奥の方にいるのが新規ね」


「あのスウェットの方ね」


「そそ、宜しく」



その言葉にニコリと笑顔を返したあたしは、フィールドの中をヒールの音を鳴らしながら胸を張り歩き始めた。




若いのは苦手だ。


テンションについていけないし


何より金を持ってるやつなんてごくわずかだから。



自分のお客さんにはならないだろうと思いながらも、あたしは笑顔を振りまこうと決心した。



偽物の笑顔で……。