「冷えるな、車入ろうか……」


「うんっ!!」


飛翔くんの体が離れると同時に、あたしは助手席のドアを開け飛び乗ると静かにまた閉めた。


懐かしい……


ここの席に座ることも、もうなかったのかもしれないんだ



ふとそんなことを考えながら窓を見つめてしまう。



そこからは、外の景色なんて一切見えなくて『フィルム貼っちゃった!!』なんてあたしの為にこの見えずらい車内にしてくれたことも思い出す。



あたしの特等席



それはいつか、他の誰かが乗ってしまうのだろうか……



そして、このフィルムも剥がされてしまうのだろうか……



エアコンの設定の24℃というデジタルの文字も、もうそこには映し出されていない。



季節が変わったせいなのだろうけど、それがすごく悲しく感じてしまう



「流奈どした?」


「んっ?」


「そんな暗い顔して……」



顔を覗きこんでいる飛翔くんをまじまじと見つめてしまう。



そして、こんなにも悲しい顔をさせているのは間違いなく自分で……



「あのさ、エアコンつけていい?」


「はっ?どした?暑いの?つーか、頭おかしくなった?」


そのあまりの驚きように、あたしはたまらなく声を出して笑った。


なんでも素直に受け止める飛翔くん



それは時に鈍感という言葉にも当てはまるのだが、そんな真っ直ぐすぎる飛翔くんにあたしは間違いなく惚れたのであろう。



「流奈、熱あんじゃねぇ?」


おでこに手を近づけ首をかしげている飛翔くんに、あたしはそのまま抱きつくと「ばかっ」と囁いた。