「もう、これ以上傷つきたくないって思った、これ以上辛い思いをしなくてすむんじゃないか…って」


「逃げた方が楽?自分の気持ちを押し殺して?」


「そう思った、だけどやっぱり流奈がいなくなる方が辛い」





居酒屋で飛翔くんとバイバイしたあの後すぐに、飛翔くんを愛して気づいてしまったことがある。



どんなに傷ついても、悲しくても、寂しくても


それでも、飛翔くんの存在があることだけで、あたしはその痛みにも辛さにも耐えられる


ほんの少しの時間でも幸せなトキを過ごせる一瞬があるのなら……



だけど……



好きな気持ちを押し殺すことほど辛いことはない



嫌われてしまえばいい……


そう思っていたはずなのに、あたしが望むものは飛翔くんの幸せだなんて思えない自分がいた。




飛翔くんのいなくなってしまった世界は色さえ失って


これからどうやって笑えばいいのだろうと、どうやって歩きだせばいいのだろうって……




だけど、あたしは飛翔くんを追うことも、縋りついて泣きわめくこともできない



なぜなら、家族がいるから




「好きなもの同士、離れることほど、辛いことはないって流奈は思ったの、でも…」


「でも?」



「そんな風に胸張って言える状況じゃないんだって思ったりもした、だから初めから……」



「関係ないだろ!!それは関係ない!!」




“出逢わなければ良かったと思った”そう言おうとしたあたしの言葉は飛翔くんの電話口から響く大きな声によって阻止された




涙が流れ落ちた



あれほど泣いて、泣き疲れたのに、まだあたしの目からは涙が流れてくれている




「俺は流奈の傍にいたい、もう逃げないよ」



「飛翔くん………」



唇はふるえていて、あたしは声にするのがやっとだった。