そんな重苦しい雰囲気を見兼ねたのか静まりかえる空間で口を開いたのは、飛翔くんでも、あたしでもなく香織だった。


「なんか話したら?」


グラスを口に運びながら言うと、その言葉であたしの口が開きかけた時「話すことないよ」と目の前にいる飛翔くんの口から言葉が放たれた。



えっ………!?


酔っ払っていても、上手く思考回路が回っていなくても、その衝撃的さくらい今のあたしでもちゃんと分かる。



そんな想いなら、どうしてここに足を運んだりしたのだろう。



少なくとも、飛翔くんが来てくれた時点で“また飛翔くんの傍にいられるかもしれない”そう、少しだけ期待したのはあたしだけだったみたいだ。




冷めた空気の中で、飛翔くんと香織が深刻そうな顔を見て思わず笑ってしまいそうになったくらい、



あまりにも飛翔くんの言葉が衝撃的で、あたしの期待が一瞬でなくなったことに場違いだがおかしくなってしまった。


グラスに入ってるお酒だけが、あたしを求めてくれて、それに自然に手が伸びる。



カランと音を出しながら溶けた氷が崩れるのを見て、このまま記憶も、この瞬間も忘れてしまえばいいのに……


そう思いながら、残りのお酒を流しこんだ。


「ちょっと待ってよ……」


それは、グラスの中の飲み物がなくなりあたしの手が店員さんを呼ぶボタンに乗せられた時、低い声が香織の口から吐き出された。



「なに?」


それに対抗するかのような飛翔くんの低い声。



「つーかさ、だったら何しに来たの?話があったから来たんじゃないの?」


「別に……」



「なんなの?それ、話すことないんらなんでいるんだよ!!つーか、別れたんじゃないの?」


「あぁ、だけど……」


「だけどってなんだよ!!話しがあるから来てんでしょ?だったら話しなよ!!終わっていいの?」


香織が言ってくれた言葉たちは……



まるであたしの心の中の声そのもので、真剣に言い合ってくれている香織を見ながら涙が出そうになった。



そして、飛翔くんを見つめるあたしの瞳に色が少しづつ失いかけていた。