帰ると言ってきかなかった香織を「二人じゃ嫌」だと無理やり引き留めて、飛翔くんを居酒屋に呼んでしまった。
《着いたよ》
そのメールはすぐに入ってきて、あたしの心臓はもの凄い早さで動きだしている。
「着いたって、どうしよう……」
「いや、どうしようって気まずいのはあたしだから」
間違いないだろう。
こんな、話し合いなど誰もが参加したくないのは当然だ。
《今、降りるね》
そう返信をしたものの、どうしていいのか分からなかった。
「待ってんじゃないの?早く行ってきなよ」
「うん」
その言葉に背中を押されるように、あたしは立つと少しだけよろけた。
飲み過ぎだ……
それに何も口にしてなかったのに、お酒を体の中に入れてしまったせいか胃がキリキリする。
「気持ち悪っ……」
席から立つと、出口の方へとゆっくり歩きだした。
この階段を下りれば飛翔くんがいるんだ……
そう思うだけで、今度は緊張のせいか気持ち悪さが倍増して胃の痛みも増していく。
「つばさ、くん…?」
階段の下で座りこみ俯いている人がいる。
いつもは大きく感じていた背中も、どこか小さく感じてしまう……
その背中に近づいた時あたしは再び名前を呼んだ。
「あ?」
あたしに向けた視線は、胸を一突きで突き刺しじわじわと痛みを広げていく……
「なんでもない……」
俯き続ける姿を上から見下ろしているあたし
こんな人通りの多い所で、こんな状況は視線を集めるだけ
そしてその視線は冷たくどことなくあたしに向けられている。
「中で話す?」
「友達いるんだろ?いいよ」
そう顔を上げた飛翔くんの表情は、笑っている風に見せたのだろうけど
あたしには悲しい表情にしか映らなくて、胸の痛みが一層増した……。



