それでもあたしは、この寂しそうな目をしている飛翔くんを置いて帰らなければいけない



どんなに幸せな時間を過ごしていたとしても、襲ってくる時間はあたし達の幸せを一瞬で奪っていく



どんな時でも、あたしはこの胸の中からそっと消えていくんだ


「そろそろ、行かなきゃ……」


大きな胸の中で呟くと、あたしから飛翔くんの体がそっと離れた。




それだけで、あたしの体の火照りも消えていく……


ポケットの中に入ってる携帯を取り出すと開き時間を確認した。


3時20分


いつもなら、家に帰って風呂からも上がっている時間


だけど飛翔くんとこうして逢うようになってからは、この時間に家にいることはほとんどない。



好きになればなるほど、それに比例して欲がついて回り、あたしは離れることを恐れる



「何時……?」



「あ、今……もう3時半になりそう」



その言葉に飛翔くんは、自分の携帯を取り出し画面の光に目を細めながら、時間を確認していた。


「そっか…帰らなきゃ、まずいだろ?」



顔を見なくても分かる、その悲しい声から飛翔くんの表情さえも想像させる。


見てしまったら、あたしはもっとこの場所にいたいと思ってしまうだろう。



「うん、最近、帰る時間遅くなってるからね」


顔を見ないままそう、冷めたように呟いた。


あたしは、何を守りたいのだろう


ここにずっと居てしまったら旦那は間違いなくあたしの行動に不審を抱く、


ばれるのが怖い?


旦那との仲が壊れてしまうことが……?


それとも、飛翔くんとの関係が終わってしまうこと?


間違いなく後者に違いない。



だけど、飛翔くんはどう思っているのだろう。


携帯をパタンと雑に閉めた飛翔くんを見ると「よし、帰ろう」とあたしの手をひっぱり立ち上がらせた。



「ごめんね……」


その返事はなくて、なぜか飛翔くんの背中から怒りのようなものを感じた。