強く握りしめていた携帯が震え、開くとそこにはあまり見ることの出来ない名前があたしに着信を教えてくれる。


“飛翔くん"


もっぱら、メールばかりであたし達が電話で話すことは少ない。


その画面を見ているだけで、バイブ音と共にあたしの心臓の音もドクンドクンと忙しそうに動きだす。





明らかに自分でも認めるほど、飛翔くんに繋がる全てのことが、あたしをこうしておかしくさせる。



携帯の画面の文字を見るだけで愛しすぎて狂ってしまいそうになるだなんて、自分で自分を疑いたいくらいだ。


あたしを知る友達が聞いたら、迷わず指さし腹を抱え笑うだろう。



通話ボタンを押すと「もしもし?」といつもよりもトーンが高めな声があたしの耳に入ってくる



「飛翔くんどこ?」


「店の裏の車の後にいる」


「分かった」


勝手に通話を終わらせ、店を飛び出すと後から「伊織ちゃん!どうした」とボーイの叫ぶ声がしたが、振り向く時間すらももったいないように感じ、そのまま走り続けた。



「飛翔くん!」


帰ってしまったかと思った飛翔くんが車の陰に座り込んでいる。


さっきだって近くにいたのは確かなのに、飛翔くんが凄く遠い気がしていて苦しくて……

なのに、あの空間から出ただけで、こんなにも飛翔くんが近くに感じる……。





あたしを下から上へと見上げると「流奈、終わったの?」と驚きながら不思議そうな顔をした。



「うん、後着替えるだけだよ」ドレスを着たまま店を飛び出してしまったことに今さらながら気が付き、急に恥ずかしくなり辺りを見回した。



「じゃあ。着替えてから来れば良かったのに」



「だって、帰っちゃうって思ったんだもん」


「ばーか、帰らねぇーよ」



近くにいたのに距離がありすぎて


ここで飛翔くんが帰ってしまったらもっと遠くに行ってしまいそうで怖くて……



だけど、こんなドレス姿と高いヒールで走ってきたもんだと思うと


自分の行動に今さら笑えて、優しそうに見つめている飛翔くんの視線がくすぐったくて目の前にしゃがみこんだ。