「何それ、ちょっと……もう行かなきゃいけないって時に」


「行かせねぇーよ!流奈は俺の傍だけにいりゃいいんだよ」


「飛翔くん…」



繋がれていた手はいつの間にか離れていて、ふんわりと一瞬であたしの体が

温かいものに包まれていく……



飛翔くんの心臓の音を、なぜか体で感じている


「行くなよ……」



消えてしまいそうな小さい声



もし、聞かないでいたら、胸の痛みは少しでも軽くなったのであろうか。


飛翔くんに包まれているあたしは、ただ腕に力をこめることしかできずに、目を強く瞑った。


夢であればいいのに



もし、これが夢の中だと分かっていれば


むちゃくちゃな行動も、現実を見ずに一緒にいることも出来るかも知れないのに。



だけど、どんなに強く願っていても叶うはずがない




虚しいけど、これが現実。



「なーんてな!じゃあ、ちゅーくれたら行かせてあげる♪」



「はっ……」



「無理ならいいよ?離さないから」



「本当は流奈だって離れたくないもん」



行きたくなんかない。


それでも飛翔くんは、足を踏み出さなきゃいけない現実に、背中を優しく押してくれた。



「お前って奴は……」


大きい手で、あたしのおでこをツンと押すと「はぁ~」と大きく伸びをしながら立ちあがった。


バイバイする時間が迫っているのに、平然を装っているようにしているのは無理しているからだ。


あたしは知っている


離れた瞬間に不安な表情をする飛翔くんを。


バイバイしてあたしの車が発進するまで、ずっと車を見ているあの寂しげな瞳を。


なのに……


あたしに、心配かけないようにわざと明るく……