無言が続く空間で、ただ悲しい音楽だけが流れている。
このアーティストの曲は、好きだが、どうもこの曲だけは聞いているだけで心が痛くなるから嫌いだ。
視線の行き場を失ったあたしは、窓を見つめていた。
真っ黒なフィルムで貼られている窓は夜のせいもあるのか、全くと言っていいほど外が映し出されていない。
その車の中にあたし達だけの空間にさっきまで喜びに満ちあふれていたはずなのに、今じゃこの空間がとても息苦しい……。
「客と連絡とってんの?」
「えっ……」
沈黙を破ったのは飛翔くんだった。
あたしと同じように、窓を見つめながら話している。
「会ったりしてんの?」
「それはしてないよ!」
「まぁ、俺がいつでも見てる訳じゃねぇーしな……」
「飛翔くんっ……」
イライラしているのか、さっき消したばかりのタバコを捨ててすぐにもう1本加え火をつけるとライターをダッシュボードに投げ、大きく煙を吐いた。
「でも仕事だから……」
「仕事でも客は男だろ?俺なら、絶対働かせねぇよ!!」
なにもかもが張り裂けそうだった。
好きでこの世界に足を踏み入れた訳じゃない。
でも、その事情を飛翔くんに話した所で、疑いがはれるわけでもない。
力を入れ、灰皿にタバコを押しつけてる飛翔くんを見つめていた。
ちゃんと消し切れていなかったタバコから、煙が立ち昇っていく……
それを、ただ一緒に見つめていた。



