あの日も、今日みたいな穏やかな晴れの日だった。

制服姿の私は、学校へと急ぐ。

「和歌子ちゃん」

下駄箱で靴を履いていると、私に声をかけてきたのは、彼女だった。

私はビックリして、彼女の顔を見る。

「おはよう」

キラキラした笑顔で彼女は私にそう挨拶してきたのだ。

「お、おはよう」

その笑顔に圧倒されて、私はつい口ごもりながら挨拶を返す。その時、下駄箱からすぐの階段で、「真奈美ー」と彼女の名を呼ぶ声が聞こえた。

すると、彼女はその呼ぶ方へと小走りになりながら手を挙げて向かっていく。あの長く艶やかな美しい髪をなびかせて。

その様子を下駄箱で見ていた私は、声を掛けられた驚きで胸が轟いていた。そして次第にイライラが募る。きっと眉間にしわを寄せて彼女の後ろ姿を睨んでいただろう。

（どうして私の境界線に入ってくるの？）

楽しそうに教室に向かう真奈美を見て、私はそんなふうに思っていた。