1868年
9月5日





櫻の間には異様な雰囲気が流れていた。





父様、母様、私


御前の向かいには伊東様と御両親様が座り私に視線の先を向けている。





「伊東様。春琴の身請けお受け致します。こちらとしては、来年の4月が一番いい時期ではないかと思うのですが」



「結構です」



その一言で決まってしまった。




倒幕以来、遊女たちの身請けが少なくなり遊亭も切り盛りが厳しくなっているなかで、500両の値段がついた。




父様、母様はさぞ喜んだことだろう。




後、半年すれば、私はこの"遊亭"と言う名の"籠"から出て、また"伊東家"と言う名の"籠"に閉じ込められる可愛そうな鶯谷なのだ。