その¨歌¨が船歌だと知るのに何年かかっただろうか。


少なくとも10年以上はかかっている。



だが、それを知ったのは以外にも、この酒場に来てすぐのことだった。




(あの人、元気にしてるかな)





今日のように船歌を口ずさんでいたイルアラは、ある客に呼び出された。



騒ぎ続ける海賊たちの中で、イルアラを呼び出した男は言った。






『あの船歌を口ずさむのはやめろ。あれは魔物が乗る海賊船の船歌だ』








頭の中にまで響く声はよく覚えている。


だから、もう一度、その男に会いたかった。



――もっと、魔物の海賊船のことを聞きたくて…。








「さぁ!辛気臭いのは、この場に相応しくないわ!ほら、騒げ!!」







イルアラは満面の笑みを浮かべ大きな声で言ってやると、近くにあったワインボトルを机に叩きつけた。



その瞬間、海賊の気持ちが一気に高ぶり、再び騒ぎ始めた。






――あの男は今日もいない。




昨日も、一昨日も、去年も、一昨年も。


あの日以来、酒場には現れなかった。




今はイルアラの心の中で、あの男は幻と化していっている。



¨男は元々、現れてはいない¨


そう思えば、日が始まる度に期待をすることもなくなる。






(ま、昔の話だわ。死んだかもしれないし)






各テーブルに置いてある、割られていない空の瓶を何本も手に掴む。


そして、それをカウンターへ持って行こうとした。