「一年生になったらー。一年生になったらー。友達百人でっきるかなー。」
私は、桜吹雪の中、地元の小学校に母と向かっていた。

今日は、私の小学校の入学式。私の胸は小躍りしていた。
幼稚園に通ったものの、未熟児だった為、他の子より、心身ともに発達が遅れた。その為、何度も入退院を繰り返す日々。私に
「友達」という名のものはいなかった。
「早く元気になってね。
一緒にまた遊ぼうね。」
平仮名ばかりの元気一杯な文字が並んだスケッチブック。
「友達」という名のものとのコミュニケーション。
しかしそれも、社交辞令。

小学校に上がったら、「友達」という名のものが出来るのだろうか?

富士山の上でおにぎりを食べれるだろうか?

点滴で青ざめた細い腕を伸ばし、精一杯母の手を繋いだ。



「しーのだ...あや..あやみ。
変な名前。」

先生が一番始めの、出席を取る中、私の名前が呼ばれた。緊張のあまり、おしっこがもれそうになった。
それは、先生の声ではなかった。
「直樹、静かにしなさい。」
その名前を呼んだ犯人の母であろう人が、高い声をあげる。私はまたびっくりして左を向いた。

私の病弱で、透き通るような白い肌とは真逆。
元気一杯の小麦色の、本当にそれだけが取り柄のような垢抜けた少年がいた。
転んだのか何なのか、左こめかみにバンドエイドが貼ってあり、ヤンキーで例えるなら、喧嘩上等といった感じか。
その少年は、少年の母にあっかんべえをし、私の方を向いて
「怒られちゃいました。」みたいな顔をした。
私は彼のその無邪気な笑顔に吸い込まれた。

一目惚れ。

ただ、それだけ。

私の脳内は

直樹くん。

になってしまった。