『俺には見てないものがたくさんあるんだ』
耳を押さえた。
拓人の声が聞こえた気がした。
たった、1ヵ月やそこらしか一緒にいないのに、他人の人生と自分の人生重ね合わせて比べるなんてばかげている。
それでなくても拓人は特殊な奴だ。
誰もあいつの真似なんかできっこない。
でも、どうしてだろう。
なんでここにきて、急に物事がはっきり見え出したりするんだろう。
(ほんとに、いいのか?)
そんなこと考えたくもなかった。
煙草を落として、足で踏み潰した。
できることならそこらへんのサラリーマンを捕まえて聞いてみたかった。
働く前何してた?
今幸せか?
充実していますか?
これでよかった、俺が正しいと胸を張って言えますか……?
「晶?」
すっかりなじんだ声。
気のせいかと思った。
顔を上げると、そこには驚いた表情の拓人が立っていた。
よれよれの作業着を着ている。
「なにしてんだ、こんな所で。今日バイトじゃなかったか?」
うっわー……マジこのタイミングだと、拓人が後光さして見えるわ。
それは気のせいではなかったらしく、俺は目を細めて拓人を見た。
「いや…ちょっとね。お前は?」
「この近くに働いてる引越し業の事務所があるんだ。今ひとつ終えてきて、昼休み」
「引越し?向いてるね」
力なく笑うと、拓人がどっかりと俺の隣に座った。

