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煙草を吸ったのは、久しぶりのことだった。
久しぶりに来たダウンジャケットのポケットの中に、くしゃくしゃになった煙草が入っていのだ。

折れ曲がって残っていた1本を丁寧に延ばして火をつける。

吸い込むと、不思議な感覚に陥る。

こんな味だったっけ?
俺、いつまでこんなの吸ってたんだっけ?
なんで吸い始めたんだっけ、なんでやめたんだっけ……。

こんな事ばっかりだ。
流れるように過ぎていっている。

公園のベンチに座った俺は、寒さも気にならないくらい途方に暮れていた。

いや、別に困っていたわけではない。

カッコつけた言い方だと、心が途方に暮れている。そんな感じだ。

ぼうっと上を見ると、空は狭い。
ビルが立ち並ぶ。
俺が就職する予定の会社のビルも、そこから見えた。


(俺、もうすぐあそこに通うんだよな)


自分で決めた。
いや、選んでもらったのだろうか。

煙をくゆらせて、視界がにじむ。
四年間これを勉強したからこれをやりたい、なんてことは思わなかった。
高校、大学を決めたときも、自分が次に住む居場所が欲しいだけだった。

疑問はない。
それが格好悪いとも思わない。


ただ、ただ、

何かがくすぶっているようなこの感覚を俺は早く自分の中から始末したかった。