《影》という表現は間違いかもしれない。
声を発した《それ》はちゃんとした人の形をしている。

ちゃんとしてはいるが、地上約1mほどの宙に浮いているのだ。
そしてその足元に、生物ならば必ずあるはずの黒い影は、ない。


「ことのん。」


ケイトは《それ》から目を離さず、言乃に声をかける。言乃も同じように静かに頷いた。


「みたいですね。」


 ケイトは一つ大きく息を吐いた。《それ》は二人の目線より少し高いところに停止した。


「聞いて驚けよ、わらわは─」

「お嬢ちゃんどったの?何か遣り残したことでもあるの?ママに人一目会いたいとか?」


喋ろうとした《それ》の言葉と遮ってケイトが質問を始めた。内容は大体が過去のことについて。それも、死ぬ直前。