それから桜の舞い散る季節は過ぎ去り、辺りの木々が桃色から活気のある若草色になろうとしている。
会長から『守ってやるから』と言われたあの日から、特に何も起こっていない。
いや、起こってほしいわけじゃないけど少し、寂しい気もした。
とある日、菅先生があることを企画した。 それは近くにある、少し規模が大きい公園に、ハイキングに行くこと。
嬉しそうな雄叫びをあげる人やら、冷ややかな目で、この歳でそれかよという厳しい意見も出没。
私の前にいる会長は、一体どんな反応をしているんだろう? そう思い、体や頭を無理に揺らす。
「何してるの?篠原さん。」
私の不自然な動作に気が付いたらしい。
「ちょっと黒板に書いてある文字が見えなくて…」
「何も書いてないけどね。」
この鋭い発言をしてくれる子は、お隣りさんの富永 渚という眼鏡をかけた可愛らしい子。
私にとってはちょっとお気に入りだ。
なんというか基本控えめなのだが、積極的になる部分がある。
そのギャップにメロメロになった男も多い、と琴ちゃんは言っていた。
「篠原さんって面白いわね。」
「あ、ありがとう…ございます。」
いきなり褒められてしまったので(多分)反応に戸惑ってしまった。
面白いと言われてありがとう、なんて返事おかしいよね…
「がんばってね?」
「ありがとうご…って、何をですか?」
「…早く前向かないと、先生が悲しんじゃうわよ。」
と言われて咄嗟に前を向いた私に、菅先生は哀愁の混ざった目付きで睨んでいた。
その顔がまた笑えて来るんですよね…。
「…いいですか。」
「あ、。すみません。」
軽く棒読み。
「皆さんも、ちゃんと聞いてますか?先生の話に、心で聞いてください。」
やっぱり笑えてきた!
その言い方やめてよ…。
みんなも笑ってる。
「何笑っとんのや。」
富永さんでもくすくす笑っている。
ってか、見事に富永さんにはぐらかされた様な気がしてきた。
何をかって?
さっきのこと。何についてがんばれと言ったのか、聞こうとしたのに。
うまい感じに聞けなくなってしまい、どうすることも出来なかったのだが、
自分としても、ただの一言の深追いは気が引けた。