「あの…これお借りしてもいいですか?」 大きな体に似合わないビニール傘を手に 彼は私にそう聞いてきた。 私は猫の置物と同じように 「ご自由にどうぞ」と笑顔で返した。 ほとんどの人が何も言わずに持っていく傘を わざわざ訊ねてくれるだけで 私は温かい気持ちになった。