約束の時間に俺たちは病院の待合室にいた。
二人とも緊張して何も話す事ができなかった。
ほんの少しの時間が長く感じられる。
「やあ、待たせて悪かったね。」
先生がやって来た。もう一人、年配の看護師さんも一緒だ。
先生が、「早速なんだが…。」と口を開いた。
「あの時、君の話から、てっきり救急車で運ばれて来た子どもの話だと思ったんだが、自家用車で運ばれて来た子がいてね。それをこの看護師の田中さんが覚えてたんだ。子どもの記憶喪失なんて珍しいからね。
で、その子は階段から落ちたと言って連れて来られた。」
階段から…?
「丸一日意識がなくて、目覚めた時、名前を聞いたら『ナツキ』とだけ答えたらしい。そうだよね、田中さん。」
「はい。確か幼稚園ぐらいの男の子でした。でもご両親の事も何もわからなかったみたいで…。不安そうにしていたのを覚えていますよ。」