店内は２人の客しかいなかった。
煙草とコーヒーの香りが、まるで沈殿した泥のように重く漂っていた。

天井にあるBOSEのスピーカーからはジャズが聞こえ、『酒とバラの日々』が静かに流されていた。

カウンターに座る女性客はモンブランを食べながら『CLASSY』を読み耽り、またもう一方のサラリーマン風の男性客は頬杖をついて居眠りをしていた。
すべては気だるく、時が止まっているかのように思えた。

我々は店の一番奥の席に座った。
神様は店員を呼び、コーヒーを注文した。僕もコーヒーを注文しようと思ったがメニューにはアルコールもあり、夕方も５時を回っていたので僕はビールを注文した。

「神様、どうして神様は僕らが幸せになることを許してくれないんですか？」

僕は先程の質問を繰り返した。
神様は胸ポケットからセブンスターを取り出し、煙草に火を点けた。一筋の煙はそのうち思い思いに形を変えて宙へと漂い、そして消えていった。
僕は神様の返答を大人しく待った。