「はい、そうです。あなたは、崎本愁吾さんですか?」


男は、静かに頷いた。


「立ち話もなんですし、私の家にでも来ませんか?」


そう言って、崎本愁吾は、スタスタと歩き出した。

僕の返事も聞かずに。

しょうがなく、僕は崎本愁吾の後をついて行った。

崎本愁吾は、少し古いマンションの中へ入った。

その中の、一つの扉の前で止まり、僕の方を向いて言った。


「ここです」


崎本愁吾は、僕にニコっと笑ってから、ポケットから鍵を取り出し、扉を開けた。


「さあ、どうぞ」


崎本愁吾は、僕に向かって、手を扉の方へと向けた。

僕は、軽く頭を下げ、靴を脱いで、部屋の中へと上がった。

玄関から、すぐの部屋は、10畳ほどの洋室だった。

その後、僕に続き、崎本愁吾も洋室の部屋に入り、玄関の戸を閉めた。


「どうぞ、ここに座って下さい」


崎本愁吾は、その部屋の隅に置かれていた、白いソファを指した。


「はい、ありがとうございます」


そう言うと僕は、そのソファの隅に、ちょこんと座った。

そして崎本愁吾は、その部屋の中にあった銀色の椅子に腰をかけた。


「ごめんね、急に。すごく怪しかったでしょ?」


崎本愁吾は、笑いながら僕に話しかけてきた。


「はい。あの、ちゃんと話してくれませんか?ココのこと、僕がここに連れて来られた理由」


「あぁ、そうだね。じゃあ、少し長くなるけど、聞いてね」


僕は、はい、と頷いた。