僕は、手紙と花を手に持ったまま、一階のリビングへ行った。

その時、気がついた。

窓の外から聞こえる、空の涙。

その空の涙と一緒に強く嘆く、風の声。

窓が、ガタガタと鳴った。


「あ、洗濯物干しっぱなしだ」


窓の向こう側に見える洗濯物が、強い風に流れるように揺れていた。

僕はリビングを出て、スニーカーを履くと、玄関の戸を押した。

夏の暑さに似合わないほどの冷たい風が、僕の顔に一気に押し寄せる。


「わっ」


思わず目を瞑った。

その瞬間、風が止んだ。

僕がそっと目を開けると、そこは、見覚えは確かにある、けど何か違う・・・そんな世界。


・・・しまった!


そうだ、これは崎本愁吾の罠だ。

僕を無理やりにでも、自分のもとに来させたかったんだ。

ぽつぽつと、人が歩いていた。

その中でも、確実に違う男がいた。

『違う男』というのは、この時代に似合わない人だ。

ここは恐らく、1993年の08月24日だろう。

辺りを見渡すと、道行く人は、今とは違う、少し古い感じの服装に、僕から見ればお洒落とは言えない髪型をしていた。

その中で、一人。

ぽつんと取り残されたように立って、僕の方をじっと見つめる男。

僕も、その男をじっと見つめて呟いた。


「崎本愁吾」


その男と僕との距離は、呟いた声なんて聞こえない程、離れた距離に立っていた。

だが、その男は、僕が何を言ったのか分かったのか、ずんずんと僕の方へと近づいてきた。

そして、僕の目の前に来て、止まった。





「森春樹様ですね?」