「だって電話出なきゃ」
「出なくていいよ。つーか出るな」
「でも……」
大翔の胸を強く押してもビクともしない。
男なんだって……実感させられる。
電話に出たいのに。
もしかしたら、もうすぐ着くって電話かもしれない。
まだ電話は続いてる。
それなのに大翔は、やっぱり離そうとはしてくれなくて――…。
だけど神様は意地悪で、蓮に見られたくないのに聞こえてきたのは―――……バイクが近付いてくる音。
近くでバイクが……止まった気がした。
あたしは道路に背を向けているから分からないけど、
大翔が顔を上げたから…………確信した。
「何してんだよ」
いつもの甘く低い声とは違って、冷たくただ低いだけの声。
咄嗟に振り向くと、そこにはバイクに跨がったままの蓮がいて……。
大翔の腕の力が緩んだから、あたしは勢いよく大翔の胸を押した。
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