律ちゃんはお世辞がうまいな。
私が可愛いわけないじゃん。
だって、昨日の午後、眼鏡のない私を皆はジロジロ見てきて、擦れ違い際には二度見された。
きっと凄い不細工だから二度見するんだよ。
私が苦笑を漏らしていると、ツンツンと律ちゃんに頭を指先で軽く突かれた。
「…思ったんだけどさぁ、沙紀って超鈍感じゃない?」
「う、うぅ。痛いよ…」
「自分が可愛くないって思ってる?」
「うん。だって¨雪女¨だし」
「¨雪女¨は関係ない!ってか¨雪女¨は綺麗だろうが!」
顔をぐっと近づけられ、迫ってくる律ちゃん。
雪女は綺麗、だなんて童話の中だけなのに…。
美羽ちゃんの言う通り、律ちゃんは単純なのかな?
「今度からマイナス思考禁止!ってか、今から禁止!」
「えぇっ…!」
「笑顔も禁止!って言いたいけど、沙紀は笑顔が似合ってるしな。笑顔だけは特別だ!」
なんか律ちゃんがよくわからなくなってきた。
マイナス思考禁止だとか、笑顔は特別だとか…。
私は今までの¨私¨で良かったのに…。
「――沙紀。アタシらが沙紀を好きになった理由はね…」
電車が駅について停車した。
乗客たちが一斉に電車から降りる。
私はその波に飲まれながら、律ちゃんの言葉をはっきりと聞いた。
『一目見て、沙紀ならアイツを変えられる。そう思ったから』
律ちゃんのいうアイツ。
私がその人を変える?
多分、無理……。