「あの、これは?」

「へんなことを聞くのだね、君は。ああ、新入りか」

私の返答をまたず自問自答するように白衣の男性は話して、作業してゆく。

「さて、血圧の測定はすんだかね?」
「はい、指示通りしました。どうぞ」

私は結果を記入した用紙を渡すと、これも手続きなんですか?
と聞こうとして、わざと息を詰まらせて制止した。

へんに引っ掻き回さないほうがいい。

「よし、私はいそがしいからね。要領よくたのむよ?きみ?」

ええ、とうなずく私をみずに白衣の男性は部屋を暗くしてプロジェクターを映した。
スクリーンに映像が映し出される。


「これは……」
「きみどう思うかね?」

映し出された映像は、鹿が煎餅を食べるところだった。

「はやくこたえなさい」

そわそわして白衣の男性が急かすもので、
仕方なくわたしはとっさに思ったことを答える。

「鹿は、煎餅にソースを付けないでしょうか?」
「なるほど。そうきたか。」

にやりと満足気な笑みを浮かべて、初めより機嫌がよくなった。

「これはどうだね?」

鹿がたくさんいて、観光客のほうへ寄っていくシーン。

「ええ……煎餅がおいしいので、もらいにいこうと思っているんでしょうね」
「ふふふ、そうかそうか。よろしい。なかなかいいデータが取れた」

電気をつけたため、部屋が明るくなる。
今度は機材を片付けはじめた。

「きみ、この調子でがんばりたまえよ」

そう一言いって、白衣の男性は左側のドアの向こうへ消えていった……
ええ、といおうとするも、やはり私のほうを見ないでそのまま行ってしまった。

これでよかったのだろうか?