暫くぶらぶらと歩いていると…、


「――…巧?」


人混みから聞こえたアルトが私の足を止めた。

“巧”と呼ばれたにも関わらず反射で振り返ったことを地味に後悔した。


「……ミキか」


「じゃなきゃ誰なのよ」


そこに立っていたのは、巧さんと親しげに話す女の人。


長い茶髪は綺麗に巻かれていて、服の上からでもわかるスタイルの良さは、黒のスーツにも関わらず妙な色気を醸し出している。


……まさか。


「で?」

「なにが」

「そのお嬢さんは?まさかとは思うけど誘拐でもしてきたわけ?」

「なわけないだろうが」


……。


「もしかして親戚?」

「違う」

「え、じゃあまさか…彼女?」

「……だったら何だ」


巧さんのその言葉に、大きな目が更に大きく開かれた。

……。


「………………まじで?」


「そうだっつってんだろ」


……まあ、別にいいですけどね。