「それにしても桃ちゃん、だんだん感じやすくなってきてるんじゃないの?」

そう言って店長はまたあたしに近付いて来た。

「今、ポップ書いてるんですけど」

「いいよ、そのまま書いてて」

店長はまたあたしの後ろに回り、首筋を舐めた。

「ちょっ!」

あたしは寒気がした。

なんか、店長、違う。

さっきそう思ってしまったから、今は触られたくない。

「ヤダ!」

あたしは店長の体を押しのけようとした。

「お、今度はそういうプレイ?いいよ、抵抗してみてよ」

そう言いながら店長は乱暴にあたしの体を扱った。

固い床に押し倒されて、あたしは本気で泣きそうになったのに、

「桃ちゃん、なかなか演技派」

なんて店長はますます興奮している。


カッコ良くて、優しくて、仕事ができて、大人で…


店長。

今、あたしに乗っかってバカみたいに腰を振っているこの男は

一体誰?


「中出しがダメなら、顔にかけてもいい?」


…!

その時あたしは。

まだ、嫌われたくない、っていう気持ちのほうが大きくて。


「いいよ」

そう答えるしかなかった。


彼女が居てもいい。

体だけでもいい。

それだけでも、店長と居られるなら幸せ。

あたしは恋に恋をしてる自分に気付かなかった。

本当に店長が好きだと勘違いしていた。

だからいろんなことを見逃していた。



翌日出勤すると、早紀の姿がなかった。

あれ?

いつも、あたしより先に来てることが多いのに珍しいと思っていると、お店の電話が鳴った。

「あ、桃…。店長は」

早紀だった。

「店長、まだ来てないよ。どうしたの早紀?体調悪いの?」

「うん、そう。今日、お休みするね…」

どんなに熱が出ても、とりあえずお店にきてスタッフに怒られて追い返される早紀なのに、お休みなんて珍しい。

「大丈夫?病院いったの?」

「ううん…これから行く」

「そっか。みんなには、伝えておくから。早く良くなってよ」

ありがとう、ごめんねと言って早紀は電話を切った。

心配だなあ。

早紀が仕事を休むなんて、よっぽどだ。