今まで出ていた4つのバンドは、
Tシャツにジーンズというラフな感じの服装で、
親しみやすいポップな音楽だった。
がんばってるんだなあ、と見ている方が微笑ましくなるような感じ。
最後の…このバンドは、
細身の黒いスーツにネクタイといういでたちで、
チャラいホストみたい…と一瞬思った。
でも。
彼らの演奏が始まってあたしは一気に引き込まれた。
荒く激しい音の波に驚いて唖然としているところに、
丸くて艶のあるボーカルが乗る。
伸びる声、ちょっと語尾に癖のある歌い方。
あたしはドリンクを飲むのを忘れて、聴き入ってしまった。
「サツキちゃん、どうだった?ちょっとは楽しめた?」
ライブが終わった後、鶴田さんがやってきた。
「うん、おかげさまで。ありがとう」
あたしは少し興奮していた。
音楽を聴いて楽しいと思ったのは初めてだったから。
「よかった。そうそう、気に入ったバンドあった?よかったら物販で何か買ってやってよ」
鶴田さんはちょっといたずらっぽく笑った。
「ぶっぱん?」
「そう、あそこ、ほら、さっき出てた奴らが手売りしてるんだよCDとかグッズをさ」
鶴田さんの視線の先には、
出演していたバンドの子達がCDやTシャツを売っている一角があった。
全然気がつかなかった…。
「へえ。見に行ってみようかな。鶴田さんに営業されたことだし」
「はい!売上アップにご協力お願いしますサツキお嬢様!」
笑いながら話していたら、
「アンケートお願いしまーす」
と後ろから声をかけられた。