「そう、不倫!って言いたいけど、俺は嫁さん一筋だからな」

「あはは、わかってますよぉ。こんな綺麗な人がオーナーの相手するわけ、ないしぃ」

「なんだと!?」

軽口をたたき合う二人を眺めながら、微笑ましいけど複雑な気分になった。

こんな風に楽しく人と冗談を言い合うなんて、自分にはもう長い間ないなあ…なんて。

5年も風俗やってたら、純粋に人との会話を楽しむことなんてどうでもよくなってきてる。

この人はこう言って欲しいんだろうなあ、なんていつも人の腹を探りながら。

思ってもいないようなことばかり言って。

あたしの口、そのうち腐るんじゃないかな?



「サツキさん、何になさいますか?」

「えっ」

あたしは急に名前を呼ばれ、面食らった。


カウンターの女の子がにこやかにあたしを見ていた。

「ドリンク、何になさいますか?好きなものオーダーしてください。オーナーにつけときますから」

「俺のハコなのにつけかよ…もういいよそれで。じゃあサツキちゃん、俺ステージ裏でやることあるから行くわ。好きなところで見てて。寂しくなったらメールして。すっとんでくるから」

「あ、うん、ありがとう鶴田さん」

しばらくカウンターの女の子と話した後、

プラスチックのカップに入ったカシスオレンジを受け取って、

隅の方でステージを見ることにした。



4番目のバンドの演奏が終わる頃、あたしはぐったりしていた。

人が少なかったのは最初だけで、今はぎゅうぎゅうというほどではないけど、だいぶ空気が薄くなってきてる感じがする。

人ごみに中に長時間いるのなんて…何年ぶりなんだろう?

立ちっぱなしなのは、風俗に入る前の仕事で慣れてるから大丈夫だけど。

ものすごく演奏の音が大きくて、耳がキーンとする。

何より、ステージがまぶしい。

照明もそうだけど、そういう問題じゃなくて。