実は、それ少し考えた。
でも、やめた。
好きな音楽を生で聴くのは、そりゃ楽しいよ。
俺はいろんな音に触れたいから、知らない音楽でもライブやコンサートは行きたいし、テンション上がる。
でも、あの人違うよ。
初めてライブハウスで見かけた時の様子からすると、下手すると苦痛に感じるかも…そんな印象。
もし、サツキさんが。
音楽に興味あって。
俺らの音を気に入ってくれてたら。
いくらでもライブに招待するのに。
サツキさんがいつも、アレ食べたいコレ食べたいって言うみたいに、落ち込んだ時、
「司くん、歌って」
て言ってくれたらいつでも俺、ギター弾くし、歌ってあげるのに。
太田が口を開いた。
「司さぁ」
「ん?」
「惚れてるの?」
ブー!
俺は飲もうとしていた水を思いっきり吹いた。
谷川ならともかく、太田からそんなこと言われるとは思わなかった。
「そんなんじゃないよ!俺は、世話になってるから…」
「だからおまえ、家政夫してんだろ?そんでチャラじゃん。普通なら、おまえもそう思うんじゃないの?」
そうだけど。
「でも…」
「そこまで誰かを構いたがる司、俺、初めて見るぞ」
そう?
うーん。
うーーーん。
ゔーーーーーん。
「あー、司がパンクしちゃうよ太田!」
ナイス谷川。
そう、パンクしちゃう俺。
こういうの、考えるの、苦手。
「あはは、ごめん。面白くて」
太田は笑いながら俺の肩を叩いた。
面白いって。
谷川はうんうんと頷いている。
「珍しいもんなぁ、司はあんまり人に関わりたがらないからな。しかも相手が女なんて、面白いよなぁ」
俺は面白くないよ。
時計を見ると、開演まであと五分。
太田はぼそりと、
「まあ、たまには谷川んちのタマの話以外で緊張ほぐすのも悪くないだろ」
と言った。
うん…いいや、今日は俺がネタ提供ってことで。
谷川だけはムキになって話しだした。
「なんだよ!本番前にはタマの話だろ!?今からするぞ!?今日のうちのタマはな…」
太田と俺は顔を見合わせて笑った。


