司くん達のワンマンライブを、見に行こうと思っている。
小雪が、あたしのぶんもチケットを取ってくれるって。
司くんには内緒。
この前、家に来たときに、帰り際、小雪はあたしの耳元で言った。
「惚れ直すよきっと」
そんなの…
そうかなあ…
でも、初めて会った時に一度だけ見た司くん達のライブ、確かにすごく格好良かった。
あたしは、司くんが用意してくれておいた朝ご飯を食べながら、変な気持ちになった。
もぞもぞする。
胸のへんが。
司くんがどうのって以前に、あたし自身、こんな気持ちになるのは久しぶりで。
「ごちそうさまでした」
あたしは司くんの部屋にむかって手を合わせた。
さて、仕事に行きますか。
この、気持ちのいいもやもやは、家に置いていくことにしている。
こんな素敵な物を、店に持ち込みたくない。
そう思っていても、形のあるものじゃないから、どうしてもうまくいかない。
あたしは以前よりも、気分の浮き沈みが激しくなったような気がする。
出勤は、相変わらず増やしたまま週5日。
司くんと顔を合わせる時間が少なくて済むから。
なるべくなら沈んだ気分のままでいたい、そっちのほうが楽。
それでも、家に帰ってくると司くんの気配がする。
司くんと会える。
嬉しい分だけ、後で自分がつらくなる。
小雪は、簡単なことのように言っていたっけ。
「風俗辞めたら?」
って。
借金があるわけじゃないし、いつでも辞められるけど、それでも続けているのは…
なんだかんだ言って、楽だから。
体もきついし、精神的にもかなりくるけど、楽なのよ。
お金に困ることは絶対にないし。
出勤自由だし。
いろんなこと我慢すれば、なにも頑張らなくてもそれなりにやっていける。
ぬるま湯なのよ、あたしにとって。
あがる事なんて考えてない。
あがる理由がない。
今更、普通の仕事でキッチリと働いていける自信も、度胸も、勇気も、ない。
ダメだなぁ…。


