「ヤダーっ」
「おとなしくしなさい!」
サツキさんともめていると、ホストが声を上げて笑いはじめた。
なんなの。
「こりゃ、サツキも大変だわ」
「何が」
見てわかんない?大変なのは俺なんだけど。
ホストは俺を品定めするように眺めた後、
「君は風俗嬢をわかってないね」
と馬鹿にしたように言った。
「わかるわけないじゃん。俺やったことないし」
ていうか男だからできないし。
何言ってんのこの人。
「そういう問題じゃない。本当だ、確かにズレてるな」
そういってまた笑っている。
ズレてるって。
「君、可愛い顔してるし、天然キャラで受けるかもしれない。バンドで失敗したら、ウチで働かないか?」
ちょっと!
またキレそうになって文句を言おうとしたら、ぐったりしていたサツキさんがいきなり顔を上げて、
「司くんは失敗しないから大丈夫!おーきなおせわ!」
とだけ言って、またガクッと下を向いた。
…ありがとう。
ホストは可笑しそうに俺たちを眺めて、
「あんまりサツキを惑わせるなよ?色男くん」
と言い残して、待たせてあったタクシーに乗り込んだ。
わけわかんないよ。
俺はサツキさんの部屋に酔っぱらいを担ぎ込んで、ベッドの上に寝かせた。
もう。
こんなになるまで飲んで。
「なによ」
サツキさんは、俺に背を向けてベッドに横たわっている。
「なによ、文句があるなら言いなさいよ」
絡み酒?
「ごめんねサツキさん」
サツキさんはぐるっとこっちを向いた。
「何?何が?なんで司くんがあたしに謝ってるの?」
「ほら、あの。さっき、変なこと言ったから」
「ああ…あたしは有料だからね。高いよ」
俺はちょっとどきどきした。
払えるかな。
「叱ってよ」
「ん?」
サツキさんはぼろぼろと涙をこぼしはじめた。
泣き上戸?
っていうか叱ってって。
言われると、やりづらいんだけど。
しかもサツキさん、泣いてるし。
「ダメだよ、こんなになるまで飲んじゃ」
がんばって言ったのに、サツキさんはますます泣きながら俺に訴えた。


